黙祷とコーヒー
二日酔いの体に熱いコーヒーが沁みる。
いつもより甘いコーヒー。
寒い朝に体が暖まる。
5時40分。
神戸に僕はいた。
被災していない僕はなんとなく場違いな気がしていた。
だから、ひたすら手の中のコーヒーをすすっていた。
いや、コーヒーをすするしか仕様がなかったと言ったほうが正しい気がする。
名前は知っている。
死傷者の数も知っている。
でも、それしか知らない。
地震が起きた瞬間、誰が何をしていたのか僕は想像するしかない。
その日の朝、どれだけ寒かったのか、僕は想像するしかない。
5時46分。
黙祷。
動いていた時が止まる。
というより、時を止めているのかもしれない。
何もしなければ、時は勝手に動き出す。
ただ、被災した瞬間に止まってしまった人もいる。
黙祷している間だけは19年前と同じ時間が流れる。
この止められた時間を共有することなら、僕にでもできるのかもしれない。
そうやって、やっと僕も少しだけ、神戸に近づけたのかもしれない。
目を開ける。
また時間が動き出す。
手の中のコーヒーはすでに冷たくなっていて、そのことがなんだかやけにリアルだった。